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カナダでのリタイアメント: RRSP: Spousal RRSP

(情報更新、加筆/修正、体裁修正等を含む)

Spousal (配偶者) RRSP とは

RRSPは、根本的には個人単位で管理をするもので、「自分のリタイア/老後資金を自分で貯めていく」というコンセプトに基づいて、自分名義のプランへ拠出をしていくものです。
したがって、例えばリタイア/老後を迎えた夫婦やコモンローパートナーカップルは、それぞれが自分名義のプランからその後の老後生活資金を「所得」として捻出することになり、その資金額がカップル間で大きく違うということも十分にありえます。さらに、その際に所得としてプランから引き出していく額が多ければ多いほど、その分にかかる所得税の額も増えるわけで、これもまたカップル間で大きく差が出るということも十分にありえます。
差があるだけならよいのですが、例えばこの差により、所得税額に関して結果的に大きく損をすることもありえます。

シンプル (かつ極端) な例を示してみましょう。
とある夫婦間において..
  • フルタイムでのフルキャリアを終えてリタイアをした 夫側のプランには $1,000,000 の資金があるとする
  • 主婦として過ごしていた時期があり、それ以外でのフルタイム職とパートタイム職を持っていた間の拠出のみで貯めた 妻側のプランには $200,000 の資金があるとする
= 夫婦の合計RRSP資金は $1,000,000 + $200,000 = $1,200,000

リタイア後、それぞれが年間 5% 相当を老後の所得として引き出すとすると
  • 夫側の年間所得が $1,000,000 x 5% = $50,000
  • 妻側の年間所得が $200,000 x 5% = $10,000
  • その時点での、夫側の所得 $50,000 にかかる税率が 20% だとすると、夫側の税額は $50,000 x 20% = $10,000
  • その時点での、妻側の所得 $10,000 にかかる税金が (各種控除等の結果) $0 だとする
結果、この夫婦の合計所得 $60,000 に対する税額は $10,000 + $0 = $10,000 となります。

対して、例えば夫婦の合計RRSP資金が同じ $1,200,000 だったとしても、夫婦それぞれのプラン内に、半分づつ同額の $600,000 の資金があるとしたらどうでしょう。
= 夫婦の合計RRSP資金は $600,000 + $600,000 = $1,200,000

リタイア後、それぞれが年間 5% 相当を老後の所得として引き出すとすると
  • 夫側の年間所得が $600,000 x 5% = $30,000
  • 妻側の年間所得が $600,000 x 5% = $30,000
  • その時点での、夫側の所得 $30,000 にかかる税率が 10% だとすると、夫側の税額は $30,000 x 10% = $3,000
  • その時点での、妻側の所得 $30,000 にかかる税率が 10% だとすると、妻側の税額は $30,000 x 10% = $3,000
したがって、この夫婦の合計所得 $60,000 に対する税額は $3,000 + $3,000 = $6,000 となり、最初の例に比べて、全く同じ合計RRSP資金額、全く同じ年間引き出し額、全く同じ合計年間所得額なのにもかかわらず、年間 $4,000 (=40%) もの節税が出来ているということになります (あくまで例)。
このように、カップル (夫婦、コモンローパートナーカップル、同性カップルを含む) 間でのRRSP資金の差、及び引き出し額 (=所得) の差を縮め、上記の例のような節税を実現させてくれるのが「Spousal RRSP (配偶者 RRSP)」というシステムです。

基礎ルール

  • Spousal RRSP とは、配偶者 (上記の例だと妻側) を「annuitant (受給者)」として定義できるRRSPプラン。
  • 自分 (上記の例だと夫) のRRSPプランとは別のプラン扱いとして、各種金融機関で配偶者名義の元 (上記の例だと妻)、開設することができる。
  • 拠出をする (拠出ができる) のはあくまで自分 (上記の例だと夫) 。配偶者側 (上記の例だと妻) はこの Spousal RRSP プランへは拠出はできない。
    ただし、もちろん配偶者自身 (上記の例だと妻) が、この Spousal RRSP プランとは別の、自分自身のRRSPプランを持ち、そこへ自身で拠出することは問題なし。
  • 年間拠出制限額は自分 (上記の例だと夫) の制限額が適用される。つまり、自分のRRSPへの拠出と、Spousal RRSPへの拠出の合計が、自分の拠出制限額を超えてはいけない。

利点と目的

  • Spousal RRSP は、リタイア以前の段階で、カップル間の所得額の差が大きい場合 (つまり、そのままではリタイア時のRRSP資金に大きな差ができてしまうことが予想される場合) にこそ利用されるべきシステムです。
  • 最終的な目的は、リタイア時の両者それぞれのRRSP資金額を出来る限り同程度にすること、ひいては、リタイア後に同程度の割合いで引き出しを行うことで得られる所得に関して、一方だけに対し高い所得税率区分が適用されることを避けることです。
  • 通常のRRSPは、自分が71才になった年以降は拠出をすることが出来ませんが、例えば配偶者が自分より年下の場合 (かつ自分の拠出限度額に空きがある場合)、配偶者が71才になる年が終わるまで、Spousal RRSP に対しての拠出をすることができます。
  • Attribution Rules
    少なくとも拠出に関しては比較的簡単なシステムですが、一点だけ注意すべき点として、以下の「Attribution Rules」と呼ばれるものがあります。
    • Spousal RRSP に拠出を行ってから3年以内に引き出しを行うと、その引き出し額の全てもしくは一部は、拠出を行った側 (上記の例だと夫) の所得として申告しなければならない
    これは、多額の駆け込み拠出によって極端な税金逃れができてしまう..という盲点を制限するためのルールとして設定されています。例えば、Spousal RRSP からの引き出しを始めようとする3年前からは Spousal RRSP への拠出を停止する...など、このルール/制限を踏まえた拠出を計画するのが賢明と言えるでしょう。
もう一つの隠れ(?)利点と言えるのは、「Home Buyers' Plan (HBP)」関するものです。RRSPのページでも触れている通り、本来リタイア後資金としてのみ利用されるべきRRSP資産ですが、例外として、一人のRRSPプランにつき $60,000 (2024年4月より、それまでの $35,000 から増額) まで、「初めて住宅を購入する際の資金 = Home Buyers' Plan (HBP)」への利用が許されています。つまり、(収入が少ない側の名義となるSpousal RRSPを含めた) カップルそれぞれの側の名義において $60,000 以上のRRSP資産があれば、カップル合同で $120,000 まで HBP への利用ができるということになります。

まとめ

カップルの形は様々で、こと家計及びそれぞれの資産管理に関しては、一括または共同口座などでまとめて管理している場合や、意識的に完全に分けている、という場合もあることでしょう。Spousal RRSP は、基本的にはそのカップルがそのままの関係を維持しているという前提のもと、リタイア後にそこから引き出しを行う際 (つまり比較的遠く不確定な未来) におけるやりくりにおいて、その時点での節税を実現出来るようにするための制度です。したがって、様々な理由から「この制度はあえて利用しない」という選択をする場合もあることでしょう。
個々の環境/事情をよく考慮し、カップル間でしっかりと話し合いを持った上で、この制度を利用するか否かを吟味するようにしましょう。